雪
帝都に雪が舞う。空には雪が舞い,銀色に様変わりした地を見ると,僕を流れる大和の血は72年前のあの日のことを思い出す。あれは先祖同士の葛藤であった。西群と東群の血流が混ざった私の血は,その事件を思い出す度,帝都の雪を見る度に,その混血感から沸沸と沸き,五臓六腑の血管を圧迫する。
記録的な豪雪となった1936年2月26日,皇道派青年将校は,天皇から預かった兵を動かし,クーデターを起こした。彼らの目的は昭和維新を起こし,清い政治と,豊かな国を造ることであった。大財閥と政治家が癒着している腐敗政治,そして大恐慌から始まった不況の不安。その行き詰まった状況を打開するためには,現在の体制を徹底的に叩き壊す必要があった。
余談であるが,皮肉なことに,226事件を動かしたのは三井から受けた資金であった。財閥の中でも三井はクーデターの危険性を予知し,若手将校に資金供給を行っていた。したがって,三井は被害を受けなかったとされる。結局彼らも財閥と癒着していたことは非常に皮肉なことである。
さて,彼らのクーデターは現状打破達成,さらに霞ヶ関を占拠するに至る。
しかし,保守的な軍部と,それの擁する天皇の鶴の一言によってクーデターは失敗に終わる。有名な,「君達の父母は逆賊と呼ばれ啼いておるぞ」のくだりである。
その後,軍の執行部はこの異端組のクーデターの規制事実までも利用し,さらに政治に発言権を強めていったことは周知のことである。
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帝都の地下鉄は霞ヶ関に停まった。占拠された国会議事堂は,今も平和な腐敗政治をおこなっているが,降り続ける雪と同じく遮るものもない。
かつて安保闘争の際に,226事件の主犯格であった山口一太郎は,安保のように皆の協力を受けたならばクーデターは成功しただろうに,と言ったそうだ。
226事件のすべてを起こした者たちは大抵が20代。老人たちの腐敗政治を倒したい夢に燃えていた。燃え尽きた3日間。いつの時代も,組織の中枢をなす大人たちと,青年はぶつかるものである。いや,正々堂々とぶつかるべきである。個々の結果はどうであれ,その活力というものが人類社会を動かして来たに違いない。
帝都の雪は止まない。